教育美術・佐武賞

教育美術・佐武賞について

 「教育美術・佐武賞」は、公益財団法人教育美術振興会(当時:財団法人教育美術振興会)の初代理事長として、長い年月ひたすら美術教育の振興に心をくだき、生涯をかけて大きな力を尽くされた佐武林蔵先生(昭和43 年没)のご寄付によって、昭和41(1966)年に設立されました。
 現場の先生方の実践に光をあてることにより、子供と共につくりあげた優れた授業を広め、指導者の育成と、図画工作・美術科教育の発展に貢献することが本賞の狙いです。そして現場の先生方が日々の実践の悩みから見出した課題や、新学習指導要領の中から見つけた課題などを解決するために、どのような実践をしているかを大事にしています。
 本賞が契機となって、学校現場における実践活動が活性化し、研究の輪が一層広がることを願っています。


※動画による説明はこちらから → https://www.youtube.com/watch?v=i5fMfxtKrAM

第59回 教育美術・佐武賞

202408_koyama
〈題名〉
現代美術とは何か?
~ 現代美術を理解し,自分なりの解釈で語るための授業展開の試み ~

〈執筆者〉
小山 美香子 (こやま・みかこ)
長野県伊那市立伊那中学校 教諭
(前任校:長野県駒ヶ根市立東中学校)

※第59回 教育美術・佐武賞 受賞論文について発表頂いております。
 是非、ご視聴ください。

 https://www.youtube.com/watch?v=LCLGYEsE6vY

 本研究は,生徒たちの価値の広がりを目的として,現代美術を「難しくてわからないもの」から,造形的な視点を持ち,自分なりの解釈で鑑賞できるようにしたいと願いを持って設定した題材の試みである。
 著名な現代作家であるジャクソン・ポロックやピエト・モンドリアン等の技法スタイルを真似てみるところからスタートし,途中,実物と制作者を迎えた作品鑑賞することを通して現代美術を身近に感じ始めたところで,それぞれが気になった現代美術の作品を選定して鑑賞を行う。このような過程を経て,作品の造形的なよさや美しさを感じ取り,作者の心情や表現の意図と創造的な工夫などについて考えることで,美意識を高め,見方や感じ方を深めることや,形や色彩,材料などの性質や,それらが感情にもたらす効果などを理解することに繋がるのではないだろうかと仮説を立てて実践を行った。
 追体験と鑑賞をミックスさせた授業を通し,体験することで実感を伴った造形的な視点を持ち,最後に生徒たち一人一人が,美術とは何かを自分自身の言葉で語る。本研究は,それら一連の現代美術へのアプローチを中心に,実践によって得られた成果と課題をまとめた。

※論文は下記よりダウンロードできます。

第59回 教育美術・佐武賞 佳作賞

202408_sugihara
〈題名〉
創造的思考力を育むための学びの提言
― 中学校の美術のデザイン領域に関する学びの在り方を考える―

〈執筆者〉
杉原  誠 (すぎはら・まこと)
山崎学園 富士見中学校高等学校 美術科主任

※第59回 教育美術・佐武賞 受賞論文について発表頂いております。
 是非、ご視聴ください。

 https://www.youtube.com/watch?v=hbnP5QwIPA4

 本研究は,東京都練馬区にある私立中高一貫女子校の山崎学園富士見中学校高等学校の美術科における実践報告である。「創造的思考力」を育むための美術のデザイン領域に関する学びの在り方を考える。複雑で不確かな時代を生きる上で「創造的思考力」は社会で求められる資質・能力であると考え,義務教育である中学の段階で育みたい。育成において美術では「デザイン」領域に関する学びが今まで以上に意味や価値を持つと考え,特に「構想」に関する理解の見直しに試みた。そう考える背景には,二つのきっかけがある。
 一つ目は,本校生徒の「デザインとは何か?」という問いに対する解釈からの気付きである。生徒の声はよきリフレクションとして,私たちの提供する学びの在り方に見直すべき点があることを気付かせてくれた。
 二つ目は,世の中で「創造性」や「創造力」の重要性が広く理解される一方,それらを扱う教科である「美術」の重要性が理解されていないというズレによる気付きである。我々が扱う美術の学びの背景となる教育観に見直すべき点があることを気付かせてくれた。
 この二つの気付きより,平成29年告示の学習指導要領の改訂がうたう「社会に開かれた教育課程」の実現と美術のデザイン領域に関する学びの見直しに関係性を見出し,「創造的思考力」を育む学びを実践した。美術科ではアートとデザインを二本柱とする「創造的思考力」の育成をもって,本校教育目標である「社会に貢献できる自立した女性の育成」に貢献したいと考えている。本研究報告では,「デザイン」に関する実践に特化して報告し,全国の教育関係者の方々と共に思考する機会にしたいと考えている。
 本校美術科では,「創造的思考力=多様な視点を統合し,ヒトモノコトに新たな関係性を見出し,新たな意味や価値を創造する力」,「デザイン=ヒトモノコトの本質を見抜き,よりよいあり方へ創造していくこと」と定義している。「デザイン」領域の学びを,どのような考えの元にどのような在り方で設計すれば「創造的思考力」の育成に繋がり得るか,実践を本文にて示した。創造的思考力の育成と美術の授業の繋がりについて考えていきたい。

※論文は下記よりダウンロードできます。