教育美術・佐武賞

教育美術・佐武賞について

 「教育美術・佐武賞」は、公益財団法人教育美術振興会(当時:財団法人教育美術振興会)の初代理事長として、長い年月ひたすら美術教育の振興に心をくだき、生涯をかけて大きな力を尽くされた佐武林蔵先生(昭和43 年没)のご寄付によって、昭和41(1966)年に設立されました。
 現場の先生方の実践に光をあてることにより、子供と共につくりあげた優れた授業を広め、指導者の育成と、図画工作・美術科教育の発展に貢献することが本賞の狙いです。そして現場の先生方が日々の実践の悩みから見出した課題や、新学習指導要領の中から見つけた課題などを解決するために、どのような実践をしているかを大事にしています。
 本賞が契機となって、学校現場における実践活動が活性化し、研究の輪が一層広がることを願っています。

第48回 教育美術・佐武賞

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〈題名〉
主題を生み出すための鑑賞指導

〈執筆者〉
横山 君子 (よこやま きみこ)
勤務先:長野県松本市立波田中学校 教諭 (応募当時)

〈概要〉
 A中学校3年生で実践してきた主題を生み出すための鑑賞の指導のあり方について、先行研究と生徒の事例を通して明らかになったことを報告する。
 中学校の美術教育において、多くの生徒は自分の作品に対して自信がなく、特に絵を描くことに苦手意識をもっており、ひいては美術は好きではないという実態がある。このことを、技能的な問題ととらえるのではなく、「表現主題」を持つことができないことに原因があると考えた。生徒は、多様な表現の価値を知らず、自分の個性的な表現のよさにも気づいていないと思われた。一般に多様な表現は、作者の表したいこと(主題)や表現のねらいによってなされている。生徒の自信のなさは、自分が作品によって表したいことがなく、表面的な表現技能のみにとらわれているからではないかと考えられる。また、自分が切実に表現したいことがあれば、技能も自分から向上させていきたい気持ちを持てるであろう。
 このような仮説を基に、生徒が自分の「表したいこと」を見出し、色や形に置き換えて表現の工夫をしていく道筋をつかむために、「心の中」を意識して表現する題材と共に「芸術作品の鑑賞」を位置づけた。「芸術作品の鑑賞」では、1枚の作品をじっくり見て意見交換する中で作者が表現したいことを感じ取っていく。「対話型鑑賞」の手法を取り入れながら、最小限必要な作品の背景を伝え、作品の主題を感じ取れるように発問を仕組んでいく。このような学習は、表現のための鑑賞としてだけではなく、同時に鑑賞の能力も育成することができる。
 生徒は、作者が作品を通して伝えたいことのために色や形を工夫していることに気づくことで、自分の作品についても、主題を意識しよりよく伝えるための造形的な工夫をしていこうとするようになった。また、美術を愛好する生徒が増えた。

※論文は下記よりダウンロードできます。

第48回 教育美術・佐武賞 佳作賞

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〈題名〉
発想を広げ、構想力を深める美術教育についての一考察

〈執筆者〉
大町 香織 (おおまち かおり)
勤務先:北海道札幌市立向陵中学校 教諭 (応募当時)

〈概要〉
 筆者の勤務校の中学生は見えないものの価値に気付くことや、自ら発想するような独自な表現を若干苦手とする傾向がみられる。また、授業で写実的な作品を追い求める裏には「物事には必ず正解がある」という学習観に縛られ、本人の発想力や構想力を働かせようという意欲の妨げとなっていることも危惧される。
 札幌市内の中3を対象に美術科アンケートを実施したところ、美術の好き嫌いに関わらず、全ての生徒は「アイディアを工夫し発想する段階」は難しくはあるが好きな活動でもあると捉えていることが解る。発想力は全ての生徒に対して教科充実の鍵を握っており、知性と感性を相互に働かせながら学ぶ美術科は、人間教育の中心的教科であると明示することが本論文テーマの目的である。また、教師は「見えない発想を見える形で浮かび上がらせ、構想し具現化する支援」の立場をとるということで3つの視点で探求し4つの実践で解決方法を試みている。視点の3つとは、A 原点を掘り下げ発想の深まりを求める。B 鑑賞作品を解体・分析して発想の深まりを求める。C 共同制作によって発想の深まりを求める。また実践方法は、1 創作絵文字の制作を通して生徒の無意識を掘り起こし発想へ繋げる支援。2 シュルレアリスムの名画の「置き換え」をヒントに発想演習を行う。3 画家の制作意図の考察を自身のアートグラスの制作の発想表現に生かす支援。4 現代絵巻物の共同制作を通し、互いの発想・構想の共有化を体験する。の4つである。
 研究の結果、発想に繋がる生徒の無意識や感動の一端をすくい取り、構想をより深い制作表現への立ち上がりへ導く美術教師の支援により、生徒はより主体的な発想の表現へと結びつけるとともにそのことを理論的にとらえるなど生活の中で生かす「知識の活用」という新たな時代を生きる力に繋がっていくものとなったと考える。

※論文は下記よりダウンロードできます。

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