教育美術・佐武賞

教育美術・佐武賞について

 「教育美術・佐武賞」は、公益財団法人教育美術振興会(当時:財団法人教育美術振興会)の初代理事長として、長い年月ひたすら美術教育の振興に心をくだき、生涯をかけて大きな力を尽くされた佐武林蔵先生(昭和43 年没)のご寄付によって、昭和41(1966)年に設立されました。
 現場の先生方の実践に光をあてることにより、子供と共につくりあげた優れた授業を広め、指導者の育成と、図画工作・美術科教育の発展に貢献することが本賞の狙いです。そして現場の先生方が日々の実践の悩みから見出した課題や、新学習指導要領の中から見つけた課題などを解決するために、どのような実践をしているかを大事にしています。
 本賞が契機となって、学校現場における実践活動が活性化し、研究の輪が一層広がることを願っています。

第52回 教育美術・佐武賞 佳作賞

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〈題名〉
美術を愛好する心を育てる美術教育のあり方
~地域活性化アートイベントと学校現場の連携を通して~

〈執筆者〉
井手 淑子 (いで よしこ)
勤務先:長崎県教育センター(研修員) (応募当時)

〈概要〉
 「美術は難しくてわからない」という大人や子どもは多い。その背景には、社会における働きや、多様な表現のよさに気付くことができていない実態があると推測した。地域を題材とした授業のあり方や、多様な表現への理解を促す手だてを考えるようになった筆者は、宇久島に赴任後、地域と連携した授業を作成していった。さらに地域活性化と美術振興を目的とした「宇久島アートフェスティバル」を企画・運営し、そのイベントを通して、子どもたちに社会と美術のつながりや、多様な美術表現のよさに気付かせようと考え、イベントと学校における美術教育とを様々な形で連携させた。
 過疎化が問題となっている宇久島は美術館も無く、多様な美術作品に触れる機会もほとんど無い。鑑賞での言語表現に深まりがなかったり、写実性が高いか否かという価値観のみで判断したりする生徒が多く、表現においても自己決定ができない姿が見られた。
 そこで筆者は、児童生徒の作品を展示することでアートイベントへの興味関心を高め、夏休みの課題や授業において作品を鑑賞させた。さらに、児童生徒を対象としたワークショップを行い、体験によって幅広い美術表現の面白さを実感させた。これらの取組の結果、表現意図と工夫を関連付けながら感じたことを記述する生徒が増え、全ての生徒が多様な表現への興味関心を高めることができた。さらに、地域活性化の取組を提案する生徒が現れ、全校生徒で取り組む島のPR活動が毎年行われるようになった。
 このアートイベントを「楽しい」と言う生徒の声からは、美術を「地域を活性化させ、楽しくさせるもの」として認識していることが伺える。地域活性化のアートイベントと学校現場の連携は、子どもたちに美術を愛好する心や、主体的に社会へ関わろうとする態度を育成するのに非常に有効な手段であると考える。

※論文は下記よりダウンロードできます。

第52回 教育美術・佐武賞 佳作賞

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〈題名〉
熊本の子どもたちに図画工作科ができること
~イノベーション力を育む一年生の色彩指導~

〈執筆者〉
本山 和寿 (もとやま かずとし)
勤務先:熊本県天草市立河浦小学校 教諭 (応募当時)
※この実践は、筆者の前任校、熊本大学教育学部附属小学校でのものです。

〈概要〉
 熊本地震に直面し図画工作科が子どもたちにできることを考えた。それは癒しでありコミュニケーションの手段である。しかし、将来子どもたちが生きる知識基盤社会を考えれば、新しい時代を切り開く資質・能力を身に付けさせる必要があり、本科の特質から、その一つとしてイノベーション力の育成も可能であると考えた。イノベーションとは無から何かを生み出すのではなく、既に有るものの組み合わせから新しいものを生み出すこととであるが、本科も「自分の思い」と「形や色」を組み合わせて価値ある作品や解釈を生み出す教科と言える。つまり、本科の学びはイノベーションそのものである。
 そこで本論では1年生にイノベーション力を育む色彩指導を行った。子どもの色の発達段階を「生理色⇨概念色⇨固有色⇨現象色」と捉えると、現象色を目指して指導をするのは自然であると言える。しかし、本論ではさらに思いを伝えるために色の感情効果を意識した色(以下「伝達色」とする)を取り入れた実践を行った。伝達色を意識させることで、自力、もしくは友だちと協働して「思い」とそれを表すのに最も適した「色」を組み合わせて、新しく価値ある作品を生み出していく学びが展開され、イノベーション力の育成も期待できる。
 実際には、1年生が友だちのいいところを書いた色画用紙の葉っぱが茂る学級のシンボルツリーに花を咲かせ、実をならせるという活動を行った。二つの実践を通して、子どもたちは自分の思いと色を組み合わせてたくさんの素敵な作品をつくっていった。完成したシンボルツリーを見て「みんなの心があたたまるかんじがする。みんなの心が一つになるかんじがする」といった感想をもつ子どももおり、子どもたちがイノベーション力を発揮して価値ある作品をつくり上げたことが分かる。

※論文は下記よりダウンロードできます。

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