教育美術・佐武賞

教育美術・佐武賞について

 「教育美術・佐武賞」は、公益財団法人教育美術振興会(当時:財団法人教育美術振興会)の初代理事長として、長い年月ひたすら美術教育の振興に心をくだき、生涯をかけて大きな力を尽くされた佐武林蔵先生(昭和43 年没)のご寄付によって、昭和41(1966)年に設立されました。
 現場の先生方の実践に光をあてることにより、子供と共につくりあげた優れた授業を広め、指導者の育成と、図画工作・美術科教育の発展に貢献することが本賞の狙いです。そして現場の先生方が日々の実践の悩みから見出した課題や、新学習指導要領の中から見つけた課題などを解決するために、どのような実践をしているかを大事にしています。
 本賞が契機となって、学校現場における実践活動が活性化し、研究の輪が一層広がることを願っています。

第46回 教育美術・佐武賞

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〈題名〉
子どもの表現に、物語はなぜ必要か
―2歳の描画遊びの応答から―

〈執筆者〉
片岡 杏子 (かたおか きょうこ)
勤務先:日立家庭教育研究所 研究員 (応募当時)

〈概要〉
 本論は、2009年から2010年に実施した幼児親子の描画遊びの記録に基づき、2歳児の描画活動と親子の応答について検討した考察である。
 子どもはおよそ1歳後半からスクリブル(なぐり描き)と言葉の意味を関連づけるようになるが、2歳代ではより複雑にイメージを構成して表現する。この時期の子どもが描画を展開する中で創り上げるストーリーは、長期的な育ちにおいても重要な意味を担っていると考えられる。本論では、実践研究を通して観察した3組の親子のエピソードから、次の考察を導き出した。
 子どもは絵具を用いて描画遊びを行う中で、活発に身体を働かせながら活動している。そしてその出来事の中心に身を置きながら、一方で、身近な他者と相互に応答することによって描画を展開していく。子どもの描画活動において身近な他者と応答することはとくに重要であり、他者に向けて自らの意志を伝えながら描くことによって、子どもは「描く主体である〈わたし〉」を表現していると考えられる。
 また、子どもは具体的な事物を描く中で、空想の物語の中に入り込んで遊んだり、自分を含めた物語を描き表したりする。その際、自分の知っている生き物や家族、自分自身を対象化して描くことによって、「他者と応答する自己」の視覚的なイメージを表現している。身近な他者とのあたたかい応答によって満たされるこのイメージは、子どもの周辺にある人的・物理的環境の認識の仕方に影響を与え、いずれ成長の過程で直面する危機において子ども自身を支えるイメージとして、長く子どもの中に印象づけられていくことが期待される。

※論文は下記よりダウンロードできます。

第46回 教育美術・佐武賞 佳作賞

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〈題名〉
思考力・判断力および表現力を育成する美術教育のあり方
~他教科との連携を図る美術の授業の可能性について~

〈執筆者〉
髙野 由美子 (たかの ゆみこ)
勤務先:千葉県柏市立第五中学校 教諭 (応募当時)

〈概要〉
 「芸術表現とは、その場限りの楽しみではないか」という言い方は、生徒の『学び』というものを「将来の役に立つかどうか」という功利主義的な側面からとらえた言い方であり、美術表現というものを現実から遊離したもののようにとらえていると言える。一般に教科としての美術の存在意義については、このような見方が大勢を占めており、次第に肩身の狭い存在になりつつあるような気がしてならない。しかし、美術という教科の真の存在意義はそのように狭義で特別なものではないのだ。学校教育における美術表現とは、単に自己表現を追究することではなく、他者との関わりの中で幅広い表現活動を行っていき、自己の表現能力を高めていくという性格を持ちあわせているのである。また、表現活動を通して、自身の社会的存在価値を高め、「他者との関わり」を通して、「より豊かに生きること」を実感できる教科なのだと思う。そういう観点から美術教育をとらえ直すならば、美術表現というものを美術の時間という狭い枠の中に閉じ込めておくことは、そうした美術の教科性を考えるならば間違いである。美術の授業は、様々な教科と関連づけをすることが出来る。美術で培った表現力が他の教科における表現につながり、反対に、他の教科における学習内容が、美術の表現活動にも生かされるのである。他教科の学習において、美術表現を活用することで「知識・技能」と「思考・判断・表現力の育成」のバランスを重視した授業が可能となり、生徒は美術の必要性を実感できるのだ。また、美術から他教科ヘアプローチすることによって、表現やコミュニケーション、創造性、情操など、多様な能力が一面的ではなく、学校教育全体の中で様々な観点から育まれていくのである。狭い枠組みにとらわれず、こだわりのない表現の中で生徒の幅広い可能性を培っていくことこそ美術という教科の役割なのだと思う。

※論文は下記よりダウンロードできます。

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