教育美術・佐武賞

教育美術・佐武賞について

 「教育美術・佐武賞」は、公益財団法人教育美術振興会(当時:財団法人教育美術振興会)の初代理事長として、長い年月ひたすら美術教育の振興に心をくだき、生涯をかけて大きな力を尽くされた佐武林蔵先生(昭和43 年没)のご寄付によって、昭和41(1966)年に設立されました。
 現場の先生方の実践に光をあてることにより、子供と共につくりあげた優れた授業を広め、指導者の育成と、図画工作・美術科教育の発展に貢献することが本賞の狙いです。そして現場の先生方が日々の実践の悩みから見出した課題や、新学習指導要領の中から見つけた課題などを解決するために、どのような実践をしているかを大事にしています。
 本賞が契機となって、学校現場における実践活動が活性化し、研究の輪が一層広がることを願っています。

第49回 教育美術・佐武賞

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〈題名〉
つくり出す喜びを味わうために
地域性を生かしながら試行錯誤できる題材の開発と手立ての工夫


〈執筆者〉
津端 朝宏 (つばた ともひろ)
勤務先:新潟県長岡市立大島小学校 教諭 (応募当時)

〈概要〉
 図画工作科の目標にある「つくり出す喜びを味わうようにする」ために、地域性を生かしながら試行錯誤できる題材を開発し、実践した手立ての成果と課題について報告する。
 今回実践研究を行った5年生の子どもたちは、図画工作科の授業を楽しみにしている。40名中39名が工作を好きであるとアンケートに回答した。その理由として、(つくるのが楽しいから)(自由につくれるから)と記述している。このことから、子どもたちは題材を関わり感じ取ったことを、形として表せることで喜びを感じている。しかし、一旦形として表すことで満足し、つくり出す喜びを味わうまでには至らない。
 原因の1つとして、よりよい表現を追求しようとする意欲を高めるような題材が不足していると考えた。このことを解決するために、学習指導要領では「高学年の児童は、自分なりに納得いく表現や鑑賞の活動ができたり、作品を完成させたりしたときなどに充実感を感じる傾向が強くなってくる」と記されている。※1そこで、学区で打ち上がる長岡花火を基に自分だけの長岡花火を立体的につくる題材を開発した。このことにより、自分だけの長岡花火の特徴を表そうと意欲的に取り組む子どもたちの姿が期待できる。
 原因のもう1つとして、よりよい表現を追求する活動が不足していると考えた。このことを解決するために、平成20年度の答申において「芸術表現やものづくり等において、構想を練り、創作活動を行い、その結果を評価し、工夫・改善する活動が重要であり、このような活動を各教科等において行うことが不可欠である」と記されている。※2自分一人でつくり進めていくだけでなく、工夫・改善できるような題材や手立てが必要になってくる。そこで、光り方を繰り返し試しながら立体的な形に表せる素材にした。このことにより、よりよい表現を追求し、つくり出す喜びを味わう子どもたちの姿が期待できる。

※論文は下記よりダウンロードできます。

第49回 教育美術・佐武賞 佳作賞

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〈題名〉
肢体不自由特別支援学校における〈楽しい美術〉の授業実践

〈執筆者〉
森田 亮 (もりた りょう)
勤務先:千葉県立桜が丘特別支援学校 教諭 (応募当時)

〈概要〉
 本校は、四肢に何らかの障害を持つ児童生徒が学ぶ、肢体不自由特別支援学校である。指導者は、肢体不自由に知的障害をあわせ有する生徒に対して教育を行う教育課程で、中学部の美術を担当している。生徒の実態として、思う存分手を動かすことや、抽象的思考が難しい面がある一方で、初めて目にするものに対して純粋な好奇心を示したり、友だちや教師とのやりとりを楽しんだりすることができる。
 本研究では、生徒にとっての〈楽しい美術〉を、[描く:意欲的に手を動かして描く][観る:作品について自由に考えて発言する][知る:作家や作品に触れる]ことの3つが、一体的に体験できる授業であると捉えた。その実現に向け、①「美術の体操」による準備体操 ②近現代美術の技法をテーマとした題材開発 ③対話型鑑賞法による鑑賞活動 を方策として、授業づくりに取り組んだ。①では、美術史上の絵画や彫刻の形を身体で模倣する中で、様々な美術作品の存在を知ると同時に、授業に対する見通しを持ったり、身体がほぐれて制作により集中したりすることのできる生徒の様子が見られた。②の“ステイニング”を取り上げた題材では、絵具を流すという初めて経験する方法に興味と関心を持って、行為そのものを楽しんだり、流し方や混ぜ方の工夫をしたりして、意欲的に制作に取り組む姿が見られた。また、③では、美術の授業や校外学習先の美術館で、友だちや作家の作品をよく見て、独自の考えを発想したり、友だちの意見に耳を傾けたりすることができた。
 本研究の成果として、技法や対話型鑑賞に取り組む中で作品の描かれ方や見かた(=美術の楽しみ方)を体験的に知り、美術に親しもうとする生徒の姿が見られた。また、美術の活動を通して知ったことわかったことに自信を持って、生活の中で生かそうとすることができた。

第49回 教育美術・佐武賞 佳作賞

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〈題名〉
東日本大震災と図画工作・美術教育
―2011~2014きぼうのてプロジェクトから―

〈執筆者〉
柴﨑 裕 (しばざき ひろし)
勤務先:東京都 多摩市立豊ヶ丘小学校 主任教諭 (応募当時)

〈概要〉
 本報告は2011年6月、多摩市立豊ケ丘小学校5年生の東日本大震災を起点にした図画工作科授業「希望の手の写真作品」製作から始まる『きぼうのてプロジェクト』の3年間を概観する。被災地:大船渡市立第一中学校をプロジェクトパートナーとして『きぼうのてプロジェクト』の輪郭がまとまり、2校の作品交流展覧会から、やがて海外の展覧会に合流するまでの《I期》。東京、岩手、またスペインの小学校を含むプロジェクトパートナーを8校に拡大して本年3月に行われた『きぼうのてプロジェクト2 ~みつけた たからもの~』青森ハ戸・東京多摩 同時開催展覧会2014:3月《Ⅱ期》までの活動の経過である。本プロジェクトのI期作品は岩手、青森、長野等国内の5か所と、2013年にはフランス・リヨン市(3月)、アメリカ・ニューヨーク国連国際学校UNIS(4月)、スペイン・マドリード(6月)からコリア・デル・リオ市(本年3月)と、国内外合計9か所で展覧会が開催されてきた。今後さらにスペインの展示が計画されている。
 本プロジェクトの展開は多くが学習者の主体性に委ねられている。予め計画された学習とは異なり、その時々の出来事や偶然の出会いが時間をかけて意味づけられ、次の展開が導き出されながら経過を辿る。そのため筆者はそれらの多様な要素を振り返って省察する時間を持つことができていない。語るべきことの中に未だ私がいるからである。本報告は美術教育実践を核とするのだが、いわゆるその実践を詳細に検討する報告と趣は異なる。
 本報告の主な目的は長い経過の途上に立ち「震災を前にして図工・美術教育に何ができるのか」を記すことである。そのためにプロジェクトの前段に着目し、取り組まれてきた手立てと経過を詳細に述べ、その上で全体から本プロジェクトの意義を浮き上がらせたい。

※論文は下記よりダウンロードできます。

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